§211 対数を使った収束判定法
第八章の §175 と §176 では \[ \sum_{1}^{\infty} \frac{1}{n^{s}},\quad \int_{a}^{\infty} \frac{dx}{x^{s}}\qquad (a \gt 0) \] が \(s \gt 1\) なら収束し、\(s \leq 1\) なら発散すると示した。例えば \(\sum (1/n)\) は発散するが、任意の正の実数 \(\alpha\) に対する \(\sum n^{-1-\alpha}\) は収束する。
しかし §200 で見たように、対数関数を使うと \(n \to \infty\) のときに \(0\) に向かう速度が \(1/n\) よりも速く任意に小さい正の \(\alpha\) に対して \(n^{-1-\alpha}\) よりも遅い関数を作れる。例えば \(1/(n\log n)\) はそのような関数であり、そのため \[ \sum \frac{1}{n\log n} \] が収束するのか発散するのかという問題には \(\sum n^{-s}\) という形をした級数との比較では答えを出せない。
あるいは次の級数でも同じことが言える: \[ \sum \frac{1}{n(\log n)^{2}},\quad \sum \frac{\log\log n}{n\sqrt{\log n}} \] こういった級数の収束または発散を判定する問題に興味が生まれる。その判定法は §174 の積分判定法から導ける。
次の等式が成り立つ: \[ D_{x}(\log x)^{1-s} = \frac{1 - s}{x(\log x)^{s}},\quad D_{x}\log\log x = \frac{1}{x\log x} \] ここから \(a \gt 1\) に対して \[ \int_{a}^{\xi} \frac{dx}{x(\log x)^{s}} = \frac{(\log\xi)^{1-s} - (\log a)^{1-s}}{1 - s},\quad \int_{a}^{\xi} \frac{dx}{x\log x} = \log\log \xi - \log\log a \] だと分かる。\(\xi \to \infty\) のとき一つ目の積分は \(s \gt 1\) なら極限 \(-(\log a)^{1-s}/(1 - s)\) に向かい、\(s \lt 1\) なら \(\infty\) に向かう。二つ目の積分は常に \(\infty\) に向かう。よって \(1\) より大きい \(n_{0}\) と \(a\) に対する級数および積分 \[ \sum_{n_{0}}^{\infty} \frac{1}{n(\log n)^{s}},\quad \int_{a}^{\infty} \frac{dx}{x(\log x)^{s}} \] は \(s \gt 1\) なら収束し、\(s \leq 1\) なら発散する。
ここから、ある \(s \gt 1\) があって全ての \(n\) に対して \(\phi(n)\) が \(K/\{n(\log n)^{s}\}\) より小さいなら \(\sum \phi(n)\) が収束すること、およびある有限の値より大きい全ての \(n\) で \(\phi(n)\) が \(K/(n\log n)\) より大きいなら \(\sum \phi(n)\) が発散することが分かる。積分についても同様の結果が得られるが、これは読者に任せる。
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級数 \[ \sum \frac{1}{n(\log n)^{2}},\quad \sum \frac{(\log n)^{100}}{n^{101/100}},\quad \sum \frac{n^{2} - 1}{n^{2} + 1}\, \frac{1}{n(\log n)^{7/6}} \] は全て収束する。 [最初の級数の収束性は §211 の直接の帰結である。二つ目の級数の収束性は \((\log n)^{100}\) が十分大きな \(n\) で \(n^{\beta}\) より小さくなることから示せる。ここで \(\beta\) は正である限りどれだけ小さくてもよい。よって \(\beta = 1/200\) とすれば、十分大きな \(n\) で \((\log n)^{100} n^{-101/100}\) が \(n^{-201/200}\) より小さくなる。三つ目の級数には §211 の最後で示した比較判定法を使う]
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級数 \[ \sum \frac{1}{n(\log n)^{6/7}},\quad \sum \frac{1}{n^{100/101}(\log n)^{100}},\quad \sum \frac{n\log n}{(n\log n)^{2} + 1} \] は全て発散する。
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\(s \gt 0\) とする。級数 \[ \sum \frac{(\log n)^{p}}{n^{1+s}},\quad \sum \frac{(\log n)^{p} (\log\log n)^{q}}{n^{1+s}},\quad \sum \frac{(\log\log n)^{p}}{n(\log n)^{1+s}} \] は全ての \(p,\ q\) に対して収束する。同様に \[ \sum \frac{1}{n^{1-s}(\log n)^{p}},\quad \sum \frac{1}{n^{1-s}(\log n)^{p}(\log\log n)^{q}},\quad \sum \frac{1}{n(\log n)^{1-s}(\log\log n)^{p}} \] は発散する。
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§211 の判定法では次の級数の収束と発散を判定できない: \[ \sum \frac{1}{n\log n\log\log n},\quad \sum \frac{\log\log\log n}{n\log n\sqrt{\log\log n}} \] いずれの級数も \(1/(n\log n)\) より速く無限大に向かうものの、その速度は任意に小さい \(\alpha\) に対する \(n^{-1}(\log n)^{-1-\alpha}\) より遅い。そのためより細かい判定法が必要となる。 \(\log_{2}x = \log\log x,\ \log_{3} x = \log\log\log x,\ \ldots\) と定めると、等式 \[ \begin{aligned} D_{x}(\log_{k}x)^{1-s} & = \frac{1 - s}{x \log x \log_{2}x \cdots \log_{k-1} x (\log_{k}x)^{s}},\\ D_{x}\log_{k+1}x & = \frac{1}{x \log x \log_{2}x \cdots \log_{k-1}x \log_{k}x} \end{aligned} \] から次の結果が得られる: 級数および積分 \[ \sum_{n_{0}}^{\infty} \frac{1}{n \log n \log_{2}n \cdots \log_{k-1}n (\log_{k}n)^{s}},\quad \int_{a}^{\infty} \frac{dx}{x \log x \log_{2}x \cdots \log_{k-1}x (\log_{k}x)^{s}} \] は \(s \gt 1\) なら収束し、\(s \leq 1\) なら発散する。ただし \(n_{0}\) と \(a\) は十分大きく、 \(n \geq n_{0}\) と \(x \geq a\) で \(\log_{k}n\) と \(\log_{k}x\) が正になるとする。この \(n_{0}\) および \(a\) の値は \(k\) と共に急激に大きくなる。例えば \(\log x \gt 0\) には \(x \gt 1\) が必要だが、\(\log_{2}x \gt 0\) には \(x \gt e\) が必要で、\({\log_{3}x} \gt 0\) には \(x \gt e^{e}\) が必要になる。容易に分かるように \(e^{e} \gt 10,\ e^{e^{e}} \gt e^{10} \gt 20,000,\ e^{e^{e^{e}}} \gt e^{20,000} \gt 10^{8000}\) となる。
\(e^{e^{x}}\) や \(e^{e^{e^{x}}}\) といった高階の指数関数が急激に増加することを確認しておくとよい。同じことは \(1\) より大きい \(a\) に対する \(a^{a^{x}}\) や \(a^{a^{a^{x}}}\) についても言える。\(9^{9^{9}}\) は \(369,693,100\) 桁の数であることが計算されており、\(10^{10^{10}}\) は当然 \(10,000,000,000\) 桁の数となる。逆に高階の対数関数は非常にゆっくりとしか増加しない。例えば \(\log\log\log\log x \gt 1\) を成り立たせるためには \(x\) を \(8000\) 桁以上の数にしなければならない1。
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\(0 \lt a \lt 1\) とする。積分 \(\displaystyle\int_{0}^{a} \frac{1}{x} \left\{\log \left(\frac{1}{x}\right)\right\}^{s} dx\) が \(s \lt -1\) なら収束し、\(s \geq -1\) なら発散することを示せ。 [\(\varepsilon \to +0\) における \[ \int_{\varepsilon}^{a} \frac{1}{x} \left\{\log \left(\frac{1}{x}\right)\right\}^{s} dx \] の振る舞いを考える。この結果も高階の対数関数を使って書き換えることができる]
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\(\displaystyle\int_{0}^{1} \frac{1}{x} \left\{\log \left(\frac{1}{x}\right)\right\}^{s} dx\) が任意の \(s\) に対して定義されないことを示せ。 [積分区間の下端を考えると、前問から \(s \lt -1\) が収束の必要条件だと分かる。しかし \(s\) が負なら \(x \to 1 - 0\) で \(\{\log(1/x)\}^{s}\) が \((1 - x)^{s}\) と同じように \(\infty\) に向かうので、\(s \lt -1\) のとき積分区間の上端で積分が発散する]
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\(\displaystyle\int_{0}^{1} x^{a-1} \left\{\log \left(\frac{1}{x}\right)\right\}^{s} dx\) が収束するための必要十分条件は \(a \gt 0\) かつ \(s \gt -1\) である。
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オイラーの極限: \(n \to \infty\) で \[ \phi(n) = 1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3} + \cdots + \frac{1}{n - 1} - \log n \] が極限 \(\gamma\) に向かうこと、および \(0 \lt \gamma \leq 1\) を示せ。 [§174 の結果から直ちに従う。\(\gamma = .577\ldots\) であり、\(\gamma\) はオイラーの定数 (Euler's constant) と呼ばれる]
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\(a\) と \(b\) を正の実数とする。このとき \[ \frac{1}{a} + \frac{1}{a + b} + \frac{1}{a + 2b} + \cdots + \frac{1}{a + (n - 1) b} - \frac{1}{b}\log (a + nb) \] は \(n \to \infty\) で極限に向かう。
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\(0 \lt s \lt 1\) とする。このとき次の級数 \(\phi(n)\) は \(n \to \infty\) で極限に向かう: \[ \phi(n) = 1 + 2^{-s} + 3^{-s} + \cdots + (n - 1)^{-s} - \frac{n^{1-s}}{1 - s} \]
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級数 \[ \frac{1}{1} + \frac{1}{2\left(1 + \frac{1}{2}\right)} + \frac{1}{3\left(1 + \frac{1}{2} + \frac{1}{3}\right)} + \cdots \] が発散することを示せ。 [級数の一般項を \(1/(n \log n)\) と比較する] この級数が \(\sum (1/n)\) から得られるとしたときに、同じ方法で \(\sum n^{-s}\) から得られる級数が \(s \gt 1\) で収束しそうでないとき発散すると示せ。
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一般に正項級数 \(\sum u_{n}\) に対して \[ s_{n} = u_{1} + u_{2} + \cdots + u_{n} \] と定めると、\(\sum (u_{n}/s_{n-1})\) は \(\sum u_{n}\) が収束するとき収束し、\(\sum u_{n}\) が発散するとき発散する。 [\(\sum u_{n}\) が収束するなら \(s_{n-1}\) は正の極限 \(l\) に向かう。ここから \(\sum (u_{n}/s_{n-1})\) が収束すると分かる。\(\sum u_{n}\) が発散するなら \(s_{n-1} \to \infty\) だから、例 82.1 から \[ u_{n}/s_{n-1} \gt \log\{1 + (u_{n}/s_{n-1})\} = \log (s_{n}/s_{n-1}) \] が分かる。そして \[ \log(s_{2}/s_{1}) + \log(s_{3}/s_{2}) + \cdots + \log(s_{n}/s_{n-1}) = \log(s_{n}/s_{1}) \] は \(n \to \infty\) で \(\infty\) に向かう]
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級数 \(\sum (u_{n}/s_{n})\) でも同様の結果が成り立つと示せ。 [収束性は同様に示せる。\(\sum u_{n}\) が発散して \(n\) より後ろで \(u_{n} \lt s_{n-1}\) なら \(s_{n} \lt 2s_{n-1}\) であり、\(\sum (u_{n}/s_{n-1})\) の発散から \(\sum (u_{n}/s_{n})\) の発散が分かる。そうでなくて無限個の \(n\) で \(u_{n} \geq s_{n-1}\) なら、その \(n\) で \(u_{n}/s_{n} \geq \frac{1}{2}\) となる。高速に発散する級数では後者の条件が成り立つ]
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級数 \(1 - \dfrac{1}{2} + \dfrac{1}{3} - \cdots\) の和を求めよ。 [問題 1 から \[ \begin{aligned} 1 + \frac{1}{2} + \cdots + \frac{1}{2n} &= \log(2n + 1) + \gamma + \varepsilon_{n}, \\ 2\left(\frac{1}{2} + \frac{1}{4} + \cdots + \frac{1}{2n}\right) &= \log(n + 1) + \gamma + \varepsilon_{n}' \end{aligned} \] が分かる。ここで \(\gamma\) はオイラーの定数で、\(\varepsilon_{n}\) と \(\varepsilon_{n}'\) は \(n \to \infty\) で \(0\) に向かうとする。二つの等式を引いて \(n \to \infty\) とすることで、級数の和が \(\log 2\) だと分かる。§213 も参照]
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級数 \[ \sum_{0}^{\infty} (-1)^{n}\left(1 + \frac{1}{2} + \cdots + \frac{1}{n + 1} - \log n - C\right) \] は一般に有限に振動すると示せ。例外は \(C = \gamma\) のときで、このとき級数は収束する。