補遺三 三角関数の理論

理解を含めるための練習問題として、三角関数の理論を次の式から構築してみよう1: \[ y = y(x) = \arctan x = \displaystyle\int_{0}^{x} \frac{dt}{1 + t^{2}} \qquad \text{(1)} \quad \text{Df.} \]

等式 \(\text{(1)}\) は全ての実数 \(x\) に対応する \(y\) をただ一つ定める。\(y\) は連続で狭義単調増加だから、連続で狭義単調増加な逆関数 \(x = x(y)\) が存在する。この逆関数を次のように書く: \[ x = x(y) = \tan y \qquad \text{(2)} \quad \text{Df.} \] \(\pi\) を等式 \[ \frac{1}{2}\pi = \displaystyle\int_{0}^{\infty} \frac{dt}{1 + t^{2}} \qquad \text{(3)} \quad \text{Df.} \] で定義すると、関数 \(\tan y\) は \(-\frac{1}{2}\pi \lt y \lt \frac{1}{2}\pi\) で定義される。

さらに \[ \cos y = \dfrac{1}{\sqrt{1 + x^{2}}},\quad \sin y = \dfrac{x}{\sqrt{1 + x^{2}}} \qquad \text{(4)} \quad \text{Df.} \] と定める。平方根は正の値とする。\(y\) が \(-\frac{1}{2}\pi\) および \(\frac{1}{2}\pi\) のときの \(\cos y\) と \(\sin y\) の値を関数がその \(y\) で連続となるように定義し、最後に \([-\frac{1}{2}\pi, \frac{1}{2}\pi]\) の外側における \(\cos y\) と \(\sin y\) を \[ \begin{alignedat}{2} \tan(y + \pi) & = & & \tan y,\\ \cos(y + \pi) & = -& & \cos y, \quad \\ \sin(y + \pi) & = -& & \sin y \end{alignedat} \qquad \text{(5)} \] で定義する。

こうして \(\cos y\) と \(\sin y\) が全ての \(y\) に対して、\(\tan y\) が \(\frac{1}{2}\pi\) の奇数倍を除いた全ての \(y\) に対して定義される。コサインとサインは全ての \(y\) で連続となり、タンジェントは定義されない点を除いた全ての \(y\) で連続となる。

理論をさらに展開するには加法定理を使う。 \[ x = \frac{x_{1} + x_{2}}{1 - x_{1}x_{2}} \] として、等式 \(\text{(1)}\) を置換 \[ t = \frac{x_{1} + u}{1 - x_{1}u},\quad u = \frac{t - x_{1}}{1 + x_{1}t} \] で変形する。

すると \[ \begin{aligned} \arctan \frac{x_{1} + x_{2}}{1 - x_{1}x_{2}} & = \int_{-x_{1}}^{x_{2}} \frac{du}{1 + u^{2}} \\ & = \int_{0}^{x_{1}} \frac{du}{1 + u^{2}} + \int_{0}^{x_{2}} \frac{du}{1 + u^{2}} \\ & = \arctan x_{1} + \arctan x_{2} \end{aligned} \] を得る。

ここから \[ \tan (y_{1} + y_{2}) = \dfrac{\tan y_{1} + \tan y_{2}}{1 - \tan y_{1}\tan y_{2}} \qquad \text{(6)} \] が導かれる。この等式はまず \(y_{1},\ y_{2},\ y_{1} + y_{2}\) が全て \([-\frac{1}{2}\pi, \frac{1}{2}\pi]\) に含まれるときにだけ定義されるが、等式 \(\text{(5)}\) によって全ての \(y_{1}\) と \(y_{2}\) の値に拡張される。

\(\text{(4)}\) と \(\text{(6)}\) から \[ \cos(y_{1} + y_{2}) = ±(\cos y_{1}\cos y_{2} - \sin y_{1}\sin y_{2}) \] を得る。符号を決定するために \(y_{2} = 0\) とすると、この等式は \(\cos y_{1} = ±\cos y_{1}\) となる。よって少なくとも一つの \(y_{2}\) の値、具体的には \(y_{2} = 0\) に対しては正の符号を取るべきだと分かる。連続性を考えれば、全ての値に対して正の符号を取らなければならないと分かる。\(\sin(y_{1} + y_{2})\) に対する公式も同様の方法で示せる。

三角関数の微分公式は通常の方法で求めることができ、べき級数への展開はテイラーの定理から得られる。

三角関数の理論を無限級数の理論から構築することもできる。この理論では例えば \(\cos x\) が等式 \[ \cos x = 1 - \frac{x^{2}}{2!} + \frac{x^{4}}{4!} - \cdots \] で定義される。詳細はホイッテーカー/ワトソン著 Modern Analysis, Appendix A にある。


  1. 最後の \(\text{Df.}\) はこの等式が定義であることを示す。[return]

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